暮らしに役立つ生態系サービスと社会

はじめに

これまで、人間の活動によって世界の生態系が大きく影響を受けたり、生物多様性が失われていることが指摘され続けてきました。
更に近年、生物多様性の重要性がより強く認識され、市民だけではなく企業も生物多様性の保全について考えることが求められるようになり、いよいよ社会全体で本格的に取り組まなければならない課題となっています。

課題に立ち向かうにあたり、まずは生態系がどういう役割をもつのかを知るため、社会やビジネスにどう恩恵をもたらし利用されているのかを「生態系サービス」と呼ばれる4つのサービスの観点でご説明します。

社会における諸活動がいったいどの生態系サービスに関わるものなのかを理解すると、新たなミッションやより大きなチャンスが生まれるかもしれません。

①「供給サービス」…人々にモノを提供する

生態系は人間に、様々なモノを提供しています。

  • 食料(魚、ジビエ、山菜など)
  • 水(飲料、農業・工業用)
  • 原材料(繊維、木材、燃料、飼料、肥料、鉱物など)

この辺りはパッとすぐに思い浮かびますが、生態系が私たちに提供してくれている資源はそれだけではなく、たとえば農作物や家畜の品種改良に利用される「遺伝資源」や、薬・化粧品・染料などの材料となる「薬用資源」もあります。(アオカビからのペニシリンの発見など)

これら人間の生活にとって重要なモノを提供してくれていることを「供給サービス」と呼んでおり、これは「具体的なモノを提供する」というビジネスや生業の源泉となっています。

②「調整サービス」…人々の暮らしを守る

生態系は、

  • 大気の質を調整する(ヒートアイランドの緩和など)
  • 水質を浄化する
  • 地力(肥よくな土壌)を維持、形成する

など、環境を制御するはたらきを持っていますが、とりわけ自然災害の多い日本ではまた、生態系による災害の緩和を上手に利用しています。

例えば、陸地を囲むように発達したサンゴ礁は、広くて硬い浅瀬を作り出すことで天然の防波堤としてはたらき、高波から陸地を守っています。
観光地としての集客や魚介類をはぐくむだけでなく、堤防を作るコストを軽減する面でも、サンゴ礁は人の役に立っています。

北海道では、冬の強風で吹雪や地吹雪によって視界が遮られることで交通事故が多発してしまうことから、道路の脇に林を作ることで、道路上での吹雪を抑えて事故を減らす取り組みが進められています。

このように、環境を制御し、災害を緩和する生態系の恩恵を「調整サービス」と呼んでおり、私たちは主に人々の暮らしを守るという形でこれを活用しています。

③文化的サービス…人々の暮らしの価値を向上させる

人に深く影響を与え、しかしその影響を評価しづらいのが「文化的サービス」です。

文化的サービスには、

  • レクリエーションや観光の場と機会
  • 文化、芸術、デザインへのインスピレーション
  • 神秘的体験

などがあります。

多くの人々が、美しい自然景観や生き物を見るために旅行し、感動したり、ストレスから解放されるなどして、かけがえのない体験をしています。
自然の意匠は家紋にも多く見られ、日本人がいかに自然と深くかかわってきたかが垣間見えます。

これを利用したわかりやすいビジネスといえば旅行・観光ビジネスなどですが、文化的サービスから得られる価値は目に見えにくい部分も多くあります。
手を変え品を変え、様々にビジネスが展開されています。

④生息・生育地サービス…守られるべきあらゆるビジネスの基盤

前述のような生態系サービスを生物種がもたらしているため、それらのサービスの基盤となっている種の存続を助ける自然のはたらきそれ自体も、生態系サービスとみなすことができます。
これを「生息・生育地サービス」と呼んでいます。

自然は、生息環境を提供することで、生物が生存・繁殖できるようにしています。
多様で広い生息環境があれば、多様な種や、種の中での遺伝的な多様性が存続できます。

すると、環境の変化があった際に、似た生態系サービスを提供する種群のうちの一部が生き残る、あるいは種の適応進化がおこりやすく絶滅しにくくなります。
結果、豊かな生態系を守ることが、生態系サービスを安定させるのです(Oliver et al 2015)。

生息・生育地サービスは、直接的にビジネスにつながるものととらえることは難しいですが、あらゆるビジネスの基盤となるものです。
生物多様性の保全について考えることが強く求められている昨今、これを守ることは私たちみんなにとっての使命ですし、実際企業が「持続可能な経営」を行っているかどうかというのは、投資家にとっても非常に重要な要素となっています。
当然、社会全体としても、多様な生態系を維持しながら自然を使うことで何らかの報酬が得られるような、新たな仕組みづくりが必要になるでしょう。

これからの社会やビジネスにとって必要なアクション

以上のように、生態系は様々な恩恵を人間社会にもたらしています。
生態系サービスを得続けるためには生態系の保全・管理が欠かせないのですが、それには様々な壁があります。

生態系は様々な生物個体が集まって成り立つ、複雑でダイナミックな系です。
生物が提供する生態系サービスは、種や、置かれた環境によって変わります。

そのため、生態系サービスを持続的に享受するためには、それを支えている種や生態系の状態についてのデータを集め続け、生態系に異変が起こった場合には積極的な保護策を講じる必要があります。
高い質で、かつ膨大な数の「生の」データを集め続けることが、生態系の保全・管理の礎になります。

written by Keisuke Atsumi & Toshiro Yamanaka

〈参考〉
Oliver, Tom H., et al. “Biodiversity and resilience of ecosystem functions.” Trends in ecology & evolution 30.11 (2015): 673-684.

TOP