世界でひろがる市民参加型の科学

デジタルを通じた市民参加

アプリを通じた道路破損の通報や、オンラインでの合意形成など、市民の行政への参加が話題になっています。
市民参加型のプロジェクトは、多くの人手を動員できるために行政の負担を減らすことができるうえ、ある事柄にたいする市民の関心を高めることができるなど、多くの利点があります。
そして、このようなデジタル基盤を通じた市民の参加は、生物学でも活発になっています。

地域の生物を保全したり、生態系サービスを理解するためには、どの場所にどの種の生物が住んでいるのか知る必要があり、そのための実地調査が欠かせません。
しかし、そのような生物の生息調査に割ける資金や人員が限られている研究機関や自治体がほとんどでしょう。
そこで、市民に生物調査へ参加してもらう取り組みが必要になってきます。

欧米では、アプリ上で市民が生物の発見や生物季節イベント(開花・結実・今年の初見など)を投稿することで得られたビッグデータから、貴重な研究成果が多く出てきています。
日本からも、Web上にある釣り人が撮った写真に基づいて魚の婚姻色の地域変異が解明されたり(Atsumi et al 2018)、Twitterで投稿されたダニの写真が新種だと発覚するなど(Pfingstl et al 2021)、市民が投稿したデジタルデータが生物学で盛んに使われるようになりました。

生物調査に市民を巻き込むための工夫

調査の意義をよく理解し、参加意欲が高い方々にとっても、手助けがなければ生息調査は難しく、手間がかかるハードルの高いものです。

生物の生息調査では

  • 見つけた生物がどの種であるかを特定する(同定)
  • いつ・どこでその生物を見つけたのかを記録していく

必要があるとともに、

  • 生物の状態を記録する、のちの再同定を簡単にするために、その生物の写真をとる

ことが好ましく、観察ひとつのために大きな手間がかかります。

さらに、幅広い層に調査に参加してもらうためには、参加者が飽きないようにゲームの要素を入れていくことが大事になります。

バイオームの取り組み

弊社のアプリである、いきものコレクションアプリ「Biome」と生物調査支援アプリ「BiomeSurvey」では、写真への画像認識や、近くでの投稿状況を組み合わせることで、投稿された生物の種がなんなのかを提案し、種同定をサポートします。
しつもん機能を通じて、他のユーザー達にその種が何なのか尋ねることもできます。
そのような取り組みの結果、2020年6月におけるデータベース中の同定精度は、種レベルで91~76%、属レベルで93~87%でした(藤木・龍野 2021)。

スマートフォンやGPS対応のデジタルカメラで撮った画像がもつ、撮影日時・緯度経度の情報を得ているため、Biome・BiomeSurveyでは、いつ・どこで発見したのかを入力する必要がありません。
一方で、海中写真などGPS情報のない画像については、アプリ上で撮影場所を入力することもできるようになっています。

このようなデジタルの力で、BiomeSurveyは個体数調査や在不在調査などの様々な生息調査(survey)を簡単にします。
近隣住民・土地利用者・行政をはじめとした多様な立場の方々が調査に参加しやすくなることで、その地域の自然を関係者に広く知ってもらえるとともに、関係者同士の一体感も生まれるでしょう。
そのような土台があれば、立場を超えた協働が進み、より良い土地利用や保全の計画・実行が進むと期待できます。

一方でBiomeは、投稿数や種に応じたユーザーへのBiome levelを付与し、種の見つけやすさなどに応じて種にレア度を設定するといったゲーム要素とともに、他ユーザーと交流できるSNS機能をもたせることで、ユーザーに楽しんで生物を発見・観察、そして投稿してもらうことを目指しています。

このようなアプリの提供を通じて、みんなの力で日本の、そして世界の生物ビッグデータを作り上げることで、自然と人間が共生する社会づくりを後押しをしていくことが、バイオームのミッションの一つです。

written by Keisuke Atsumi
director: Toshiro

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〈参考〉

道路通報|https://www.projectdesign.jp/articles/592f1a1c-4432-4d54-a0ab-e7bffb438e9b
市民参加型スマートシティの可能性|https://liquitous.com/lisearch/journal/2021/11/08/688/

Pfingstl, Tobias, et al. “Ameronothrus twitter sp. nov.(Acari, Oribatida) a new coastal species of oribatid mite from Japan.” Species diversity 26.1 (2021): 93-99.

Atsumi, Keisuke, and Itsuro Koizumi. “Web image search revealed large-scale variations in breeding season and nuptial coloration in a mutually ornamented fish, Tribolodon hakonensis.” Ecological Research 32.4 (2017): 567-578.
藤木庄五郎, and 龍野瑞甫. “モバイル端末を用いた生物多様性モニタリング手法開発に向けた 市民科学の実践.” 日本生態学会誌 71.2 (2021): 85-90.

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