民有地を自然保護区に!自然共生サイトの仕組みづくりが進行中

実は使われていないから損なわれている?日本の生物多様性と生態系

生物多様性を守り、生態系サービスを享受し続けていくためには、自然を保護する必要がある―これは概ね正しいのですが、日本にはもう一つの問題があります。それはなんと、自然を使わなさ過ぎている(過少利用)という問題です。

その最たる例が、里山です。

かつての日本社会では、生活に必要な燃料・資材を、薪や木材という形で、森から得ていました。繰り返し小規模に木が切られることによって、森には大木がなく、明るい森が保たれます。家畜の餌や肥料のもととなる草を得るために草を刈り続けたり、燃やすことで、草原や湿地も維持されていました。その結果として里山は、明るい森や草原、湿地にすむ生き物(キキョウ、ササユリ、サギソウ、カヤネズミなど)にとって貴重な生息地を提供してきました。

しかし、第二次大戦後の経済成長の中で、より便利な化石燃料の普及や、外国の安い木材の流入により、日本人は近くの里山から燃料や資材を得ることをやめてしまいました。明るい森は木の成長によってうっそうとした暗い森に変わり、草原や湿地にも木が生えて森に変わっていきました。そして、明るい森や草原・湿地に生息していた生物種の多くがすみかを失い、現在では絶滅危惧種に名を連ねるようになっています。

里山がより原生に近い森に移り変わっていくことは、原生林を好む生物の住処を広げることとなり、必ずしも悪いことではありません。しかし、日本人が慣れ親しんできた里山やそこに生きる生物が減ってしまうことは、文化や生物多様性の損失です。管理の担い手を募集できる森では、そのまま原生に戻すのか、里山として使っていくのか、住民や行政を巻き込んだ議論が必要でしょう。原材料高が進む昨今では、原材料の供給元として身近な山林に目を向けてみてもいいのかもしれません。

そのような取り組みを支えるには、多様な生物を維持しつつ自然を使うことが、何らかの報酬をもたらすような仕組みが必要です。それが、「自然共生サイト」の考え方です。

自然を使いながら、生物を守っていく。自然共生サイト

自然共生サイトは日本の環境省が提唱している呼び名で、海外等ではother effective area-based conservation measures(OECM)と呼ばれています。2010年の愛知目標において、自然保護区を拡大していくために、自然が守られている民有地も自然保護区として認定しようとしたことが始まりです。現在では、2030年までに各国の国土の30%を自然保護区にする目標(30by30)を達成するための切り札とみられています。
(※参考リンク:30by30 | 環境省 https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/

日本で期待される自然共生サイトと役割としては、主に以下のようなことが挙げられます。

効果的な自然保護

  • 生物多様性保全上の重要度が高い地域の保全
  • 既存の保護区同士や異なる生態系を自然共生サイトがつなげることによる効果的な自然保護
    (例)山・海を結ぶ川が自然共生サイトとして保護区化され、山と海を一体として保全管理し、多様な生物を守る

地域づくり・グリーンインフラの支援

  • 里地・里山・里海でなされるような自然に配慮した土地管理を支援し、生態系サービス(農林水産物の提供・観光・減災・環境浄化など)を享受しやすくする
  • 管理を通じて、住民・企業・研究機関・行政といった地域の多様な主体が協働するようになり、地域が活性化する

自然保護に取り組む企業等の価値が高まる

  • 自身が頼っている生態系サービスをもたらしている自然(自然資本)の持続的管理に出資・参画することで、事業環境が安定する
  • (例)

    • 飲料メーカーが、取水地の山林の保全することで、きれいな水が安定供給されやすくなる
    • 漁業者やダイビングショップが魚付林・藻場を保全することで海の生態系が保たれ、漁獲量・種、集客が安定する
    • 電力会社が、送電線近くの森を管理することで、災害時の倒木などを減らし、強靭なインフラができる
    • 工場緑地・植林地が自然共生サイトに登録されることで、CSR活動がアピールしやすくなる

などが考えられており、地域振興、自然の持続的な利用、自然に配慮した減災、企業の競争力の向上といった日本が取り組むべき課題に広く貢献する、先進的・挑戦的な取り組みです。

求められる取り組み

環境省は、自然共生サイトに対する減税等によって登録を後押しし、2023年度には国内の100箇所を認定する、という野心的な目標を立てています。

2022年現在は、自然共生サイト登録の試行中で、認定基準や登録プロセスの課題を洗い出している段階にあります。地域・土地利用によって異なる自然に対してどのような認定基準を設けるかは非常に難しい問題で、体当たりしながらじっくりとルールを改善するほかありません。多くの自治体・企業といった主体が、ルールが固まるのを待つのではなく、実際に応募してルール作りにも関与・貢献していくことが望まれます。

認定や、自然に配慮した土地の順応的な管理には、現地の生物多様性をモニタリングしていく必要があります。多様な主体の資産となる自然共生サイトの調査には、関わっている主体が参加するのが好ましいでしょう。自分たちのサイトの実態を自分たちで調べることで、実態を把握し、協働が生まれ、より良い管理に繋がっていくと期待できます。

written by Keisuke Atsumi
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〈参考〉
https://www.env.go.jp/content/900492859.pdf
https://www.env.go.jp/nature/R3-03_ref01.pdf
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/activity/policy/jbo2/jbo2/index.html
生物多様性及び生態系サービスの総合評価報告書 平成 28 年3月 環境省 生物多様性及び生態系サービスの総合評価に関する検討会
景観生態学 日本景観生態学会編 2022

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